Research group
消化管研究班/食道がん・胃がん・十二指腸がん

 食道がん・胃がん・十二指腸がんに対する内視鏡治療や臨床研究を、助教の土肥統を中心に、質の高い診療と研究を心がけ日々取り組んでおります。

食道がん・胃がん・十二指腸がんとは?

食道がん
 食道がんは喫煙と飲酒が危険因子として知られています。また飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドは発がん性の物質であり、アセトアルデヒドの分解に関わる酵素の活性が生まれつき弱い人(お酒を飲んで顔が赤くなる人)は、食道がんの発生する危険性が高まることが報告されています。食道がんが進行してくると、熱いものが胸にしみるとか食べ物がつかえる感じがするなどの症状を自覚することがありますが、早期のうちは症状がほとんどありません。
胃がん
 胃がんは日本人が罹患するもっとも多いがんのひとつで、本邦でも2017年の統計での罹患数は全てのがんの中で男性1位、女性3位、全体で2位となっています。 胃がんが進行してくると食欲低下、腹部不快感、腹痛、黒色便、貧血症状などがみられますが、早期の胃がんの場合は食道がんと同様に症状がないため、バリウム検査、内視鏡検診などの健診をうけることが大切です。
十二指腸がん
 十二指腸は胃に続く小腸の上部で、この部位にもがんや、腺腫というがんの前段階の病変がみつかることがあります。食道がんや胃がんに比べると頻度は多くなく、成因も不明な点が多い疾患です。

近年、内視鏡検査の機器と診断技術の進歩により、これまで発見が困難であったごく初期の小さな食道がん、胃がん、十二指腸がんが発見できるようになりました。

内視鏡検査 -胃カメラ検査-

 近年の消化器内視鏡は、鮮明な画像を映し出すことができるハイビジョンシステム、特殊光を用いた画像強調観察(Narrow band imaging; NBI, Blue laser imaging ; BLI, Linked color imaging; LCI)、胃や食道の粘膜を顕微鏡のように拡大して見ることのできる拡大内視鏡などのがんを早期に発見し、正確に診断する技術が格段に進歩しております。我々の施設ではこれらの最新内視鏡システムを常備し、できるだけ早期にがんを発見し、正確な診断を毎日の内視鏡検査で心がけています。

画像強調観察

通常の内視鏡では指摘が難しい早期のがんも、上記のような画像強調観察を用いることで病変を発見することができるようになります。
早期食道がん
NBI観察では、病変部が茶褐色となり、通常光に比べて病変が視認しやすくなります。
早期胃がん
LCI観察では、通常光に比べて発赤がより強調され病変が視認しやすくなり、早期胃がんの発見率の向上が期待されています。

拡大内視鏡検査

拡大内視鏡では、消化管の粘膜の表面の構造や血管を詳しく観察することができ、病変が“がん”なのか“非がん”かについて高い診断精度で評価することができます。
早期食道がん
NBI観察では、病変部が茶褐色となり、通常光に比べて病変が視認しやすくなります。

”早期のがん”とは?

 食道がんや胃・十二指腸がんは初期の段階では浅い層(表層の粘膜内)にとどまっていますが、大きくなるにしたがって次第に深い層(粘膜下層、筋層、漿膜下層)へと達します。がんが粘膜または粘膜下層にとどまっている状態は転移の可能性が比較的少ないことがわかっていますので、この状態を表在型(早期)食道がんや、早期胃がん、早期十二指腸がんと呼んでいます。
このような食道や胃、十二指腸の早期のがんの中でも腫瘍が最も表層の粘膜層内にとどまっている場合には、がんの転移がほぼないと判断できます。この場合には、外科手術ではなく胃カメラによる内視鏡的粘膜切除での治療で根治が可能です。がんが粘膜下層に及んでいる場合はリンパ節転移の可能性があることがわかっており、外科手術が選択されることもあります。

食道がんの進達度

胃・十二指腸がんの進達度

早期のがんに対する内視鏡治療

近年、消化管のがんに対する内視鏡治療は従来施行されてきた内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection; EMR)から、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection; ESD)へと大きく発展を遂げてきました。ESDは2cm以上の大きな病変に対しても取り残しのない切除(一括切除)が可能です。そのため局所再発率が低く、正確な病理診断が可能なことから現在広く普及しております。当科でも早期食道がん、早期胃がん、早期十二指腸がんに対してESDによる内視鏡治療を標準的に施行しています。

ESD手順

内視鏡治療の流れ

 早期の胃がん・食道がんが見つかって当院の外来を受診された方は、拡大内視鏡や超音波内視鏡などを用いて詳細に検査することで、腫瘍の大きさや範囲・がんのタイプ(組織型)・深達度などの術前診断を行なっています(外来通院での日帰りの検査)。この検査結果を踏まえた上で、内視鏡治療を受けていただくか外科的な手術を受けたいただくかを決めます。また、内視鏡治療の場合にはご紹介いただいてから2〜3週間以内に入院治療を受けていただけるよう心がけております。
 入院期間は通常約一週間です。切除したがんは病理組織検査で最終的な診断を行います。病理検査結果は退院後外来での説明となり、結果によって今後の方針(経過観察・追加治療などについて)を相談します。

当グループにおける上部消化管内視鏡治療成績

2018年の胃がんESD年間症例数は155例と近畿圏医療機関の中で第7位、全国では第37位であり、食道がんESD年間症例数は82例と全国医療機関の中で第30位でした(朝日新聞出版社「手術数でわかるいい病院2019」より)。また十二指腸病変に対するESDは操作の難しさや偶発症の多さからが処置の難度が高いことが知られていますが、当院では積極的に治療を行い良好な成績をおさめており、近隣だけでなく他府県からも多数の症例をご紹介いただいております。

当院におけるEMR, ESD症例数

内視鏡医育成システム

専攻医・大学院生のトレーニングシステム

専攻医・大学院生には熟練の指導医のもとでスキルアップのためのトレーニングシステムを導入しています。
  1. ① ESD症例の実際の処置に携わりながら、内視鏡治療の基本を習得します。
  2. ② 拡大内視鏡の知識や技術習得をトレーニングし、正確な診断技術を学びます。
  3. ③ 上記の技術を習得し、ESDオペレーターとして治療を行います。
各個人が4年間のトレーニングを経て、ESDを完遂できるレベルに到達することが可能です。
スキルアップイメージ

病理カンファレンス

当科では、病理診断科と連携し“ESD病理カンファレンス”を月に1回のペースで開催しています。内視鏡での病変発見時から拡大観察、内視鏡治療、そして術後病理に至るまでを一貫して詳細に検討しています。当科では“ 拡大像をみて病理像までイメージできる”ように、内視鏡診断学の向上に努めています。

内視鏡ハンズオンセミナー

当院主体で、若手医師対象の“内視鏡治療ハンズオンセミナー”を定期的に開催しています。関連病院のESD指導医の先生方をお招きし講義、実技指導を行っています。若手医師が実際に豚の胃を用いて、直接指導を受けながらESDを行うため、大変好評です。

広小路ライブセミナー

“広小路ライブセミナー”を年に1回開催しており、著名な先生方をゲストにお招きし、講義や内視鏡ライブを行っています。医局に関係なく、医師やメディカルスタッフの方々に盛会のもと多数御参加頂いています。

臨床研究

“新しいことを生み出す” をモットーに日々臨床研究に励んでいます。当院単独の研究はもちろん、関連病院や他大学との共同研究など数多く取り組んでいます。また、国内外での学会での演題発表を精力的に行うよう心がけています。

英文紙への投稿

  1. Dohi O, Hatta W, Gotoda T “Long-term outcomes after non-curative endoscopic submucosal dissection for early gastric cancer according to hospital volumes in Japan: a multicenter propensity-matched analysis." Surg Endosc. 2019 Feb 25.
  2. Kitaichi T, Dohi O, Fujita Y, “Clinical and Pathological Challenges in the Diagnosis of Gastric-Type Differentiated Adenocarcinoma in the Stomach: A Study of Endoscopic Submucosal Dissection Cases.” Digestion. 2019;99(4):301-309.
  3. Dohi O, Yagi N, Naito Y, “Blue laser imaging-bright improves the real-time detection rate of early gastric cancer: a randomized controlled study.” Gastrointest Endosc. 2019; 89(1):47-57.
  4. Dohi O, Yoshida N, Terasaki K, “Efficacy of Clutch Cutter for Standardizing Endoscopic Submucosal Dissection for Early Gastric Cancer: A Propensity Score-Matched Analysis.”Digestion. 2018 Dec 6:1-9.
  5. Horii Y, Dohi O, Naito Y, “Efficacy of Magnifying Narrow Band Imaging for Delineating Horizontal Margins of Early Gastric Cancer.” Digestion. 2018 Nov 13:1-7.
  6. Iwai N, Dohi O, Naito Y, “Impact of the Charlson comorbidity index and prognostic nutritional index on prognosis in patients with early gastric cancer after endoscopic submucosal dissection.” Dig Endosc. 2018 Sep;30(5):616-623.
  7. Kimura-Tsuchiya R, Dohi O, Fujita Y, “Magnifying Endoscopy with Blue Laser Imaging Improves the Microstructure Visualization in Early Gastric Cancer: Comparison of Magnifying Endoscopy with Narrow-Band Imaging.”Gastroenterol Res Pract. 2017;2017:8303046.
  8. Dohi O, Yagi N, Yoshida S, “Magnifying Blue Laser Imaging versus Magnifying Narrow-Band Imaging for the Diagnosis of Early Gastric Cancer: A Prospective, Multicenter, Comparative Study.” Digestion. 2017;96(3):127-134.
  9. Dohi O, Yagi N, Majima A, “Diagnostic ability of magnifying endoscopy with blue laser imaging for early gastric cancer: a prospective study.”Gastric Cancer. 2017 Mar;20(2):297-303.
  10. Tomie A, Dohi O, Yagi N, “Blue Laser Imaging-Bright Improves Endoscopic Recognition of Superficial Esophageal Squamous Cell Carcinoma.” Gastroenterol Res Pract. 2016 Sep 22.
  11. Dohi O, Yagi N, Onozawa Y, “Linked color imaging improves endoscopic diagnosis of active Helicobacter pylori infection.” Endosc Int Open. 2016 Jul;4(7):E800-5.
  12. Dohi O, Yagi N, Wada T, “Recognition of endoscopic diagnosis in differentiated-type early gastric cancer by flexible spectral imaging color enhancement with indigo carmine. ” Digestion. 2012;86(2):161-70. doi: 10.1159/000339878. Epub 2012 Aug 8.

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